Archive for 11 August 2005

11 August

演題:睡眠呼吸障害診療における生理検査の役割

日本臨床検査学会総会(福岡)2005
抄録本文:
【緒言】
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Hypopnea Syndrome: SASまたはSAHS)はJR西日本で起こった新幹線運転士の居眠り事故の原因病態として記憶に新しい。SASは睡眠障害(Sleep Deprivation)あるいは睡眠呼吸障害(Sleep Disordered Breathing:SDB)という広い疾患概念の一部であり、睡眠中の呼吸障害と、その呼吸異常に起因する睡眠自体の障害が共存する病態である。睡眠が人間の基本的な生理機能であることは論を待たず、睡眠のために費やされる時間は生涯の3分の1を占めるともいわれているにもかかわらず、一部の先駆的研究を除き、医学あるいは医療の分野では軽視されてきた分野といえよう。これまで、SASの捉え方にもその影響が色濃く、呼吸障害の側面にのみ関心が集まる傾向があり、その傾向は呼吸器科や循環器科で顕著である。
種々のSDBの中で、ここではまずSASに重点を置き、その病態と診断、さらに検査の実際について述べ、生理検査実施上の課題についても触れたい。
【SASの病態】
教科書的にはSASといえばピックウィック症候群(Pickwickian syndrome)があまりに有名であり、肥満と傾眠そして右心不全というステレオタイプが作られてきた。しかし、「睡眠呼吸障害は肥満者の病気であり、体重の減少により容易に治癒する」と考えることが誤りであることを、今日では多くの人々が知っている。SASの病状は軽症例から超重症例まで著しく広い分布を示し、典型例のように解剖学的異常のみで論議できるほど単純な病態ではないからである。SASの中で最も頻度の高い閉塞型無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndorome:OSAS)は睡眠の深さに依存して起こる上気道の不安定性を背景とする病態である。すなわち、睡眠によって上気道の開存を維持する筋群の弛緩が生じるとともに、吸気筋の活動によって生じた胸腔内圧の変化、ひいては気道内の陰圧化により上気道が容易に虚脱する。虚脱によって空気の流入が妨げられる結果、通常は反射的に緊張して上気道内腔を維持すべき上気道筋が陰圧に抗することが出来ず、吸気努力のみが持続し胸腔内圧は低下し続ける。この際、吸気努力が中枢の短期覚醒を引き起こす。短時間に繰り返し生じる気流の途絶によって低酸素血症が生じるのはいうまでも無いが、繰り返す覚醒反応が交感神経の持続的かつ過剰な緊張を生じる。このような現象が連日連夜の睡眠中に繰り返すうち、カテコラミンの過剰を経て高血圧や不整脈を伴う。さらに、過剰な胸腔内の陰圧は前負荷を増大させて心負荷を増大させ、一方では心室壁の収縮を阻害し心拍出量を減少させる。今日では、これらの血行動態や換気力学的な異常に加えて、全身の炎症性サイトカイン(インターロイキン、CRP、TGF、VGEF)や神経内分泌(Leptin、Orexin、Adiponectin)までもが異常を示すという証拠が次々に明らかにされている。SASは単に睡眠中の呼吸異常というのみでなく、全身性的な生理調節を阻害する重篤な病態であるといえる。
【SASの診断】
使い古された表現ではあるがSASの診断は、まずその存在を疑うことにはじまる。上述のごとく、多彩な病態が直ちにSASに起因するとは一般に認識されにくいため、診断以前のSAS患者は医療機関を訪れていても、催眠薬(睡眠薬・精神安定薬)、降圧薬、利尿薬、冠拡張薬といった対症療法薬が投与されている。不幸にして、これらの対症療法はSASを改善させないばかりか、時には状態を悪化させることさえある。このように多くの患者はすでに医師による診察の機会を得ており、合併症に対する投薬まで行われている。ではなぜSASそのものの診断に至らないのか、今後はそのことを真剣に考える必要がある。
第一にSDBは原因となる呼吸の異常が、もっぱら睡眠中(無意識下)に生じることから、覚醒状態(意識下)の患者自身の自覚症状や覚醒中の臨床検査所見には、病態のごく一部が間接的症状として反映されるのみであり、生理検査、生化学検査といった検査のカテゴリーに関わらず、覚醒中の検査のみでは睡眠中の病態をつぶさに把握することは困難なのである。これがSASの診療では睡眠中の観察(検査)が不可欠な所以である。
第二にSDBにより生じる二次的健康障害が表【臨床症状の表】のごとく多岐にわたることによる。なかでもSDB患者においては心循環器疾患や脳血管障害の発生頻度【文献1】が高いことが統計的に明らかにされており、循環器的症状に注目が必要である。最終的には睡眠と呼吸の両面から生理学的診断が求められる。一方でSAS発症の誘引となる肥満や顎顔面の骨格異常、神経筋疾患や肝腎障害などの臨床症状は、どの部分が基礎疾患に由来し、どの部分が睡眠呼吸障害によるものかの判断に迷うことも少なくない。自覚症状としての不眠、日中の眠気や倦怠感、他覚的なものとして高血圧や心不全症状、狭心症や不整脈というように「ありふれた症状」の組み合わせも診断を困難にしている。
【たかがいびき、されどいびき】
SDBの疑いがある患者の確定診断は最終的にポリソムノグラフpolysomnograph : PSGを用いた終夜検査によりなされる。PSGとは睡眠中の生理学的指標を同時記録するものである。PSGに含まれる検査としては表に示す項目【厚生省の診断方法表】が挙げられ、特に睡眠脳波は睡眠ステージの解析と睡眠中の痙攣性疾患や他の原因による不眠を評価するために必須の検査項目である。厚生省は先に表【厚生省の診断基準表】のごとく、本疾患の暫定的診断指針および治療開始基準を示しているが、平成9年4月にはSDB特に閉塞型睡眠時無呼吸症候群obstructive sleep apnea syndrome : OSASの第一選択治療法として睡眠時の持続陽圧呼吸療法continuous positive pressure : CPAPを健保収載するとともに、保険適応基準【厚生省の適応基準表】では脳波検査を必須の項目としている。検査結果を医師自らが解析する場面を考えると一般内科医にとっては睡眠脳波や睡眠中の筋電図を正確な評価にはかなりの困難が伴う。他方、睡眠状態の評価に明るい精神科医や神経内科医にとって呼吸状態の詳細な評価は専門外と映るであろう。従って、終夜PSG検査を専門に行い基本的な解析を専門とする検査員(ポリソムノグラファー:polysomnograph technician :PSGT)の養成が急務である。この分野で最も進歩しているアメリカでは米国睡眠学会ASDAを中心に詳細な診断と治療のための各種ガイドライン【文献】が出版され、専門検査技師の養成も盛んに行われている。さらに、ガイドラインには診断のための施設基準まで詳細に記述されている。残念ながら我が国には同様の基準がまだ存在せず、多くの施設が独自の基準により、それぞれが可能なレベルで応急的な検査と診療が行われているに状況である。


 日中に行われる生理学的診断検査の役割は限定的と述べたが、。上気道の動的特性を反映するフローボリウム曲線などの換気力学的検査や心電図などの循環機能検査、動脈血のガス分析などがある。
 現在、睡眠呼吸障害診断法のゴールデン・スタンダードは睡眠ポリグラフ(PSG:polysomnograph)である。PSGは就寝中に複数の生理検査を同時に行い、複数の生理パラメーターの病態生理学的関連性を時系列的に推定する検査法であるが、画像診断や生化学的検査に慣れきった現代の医療現場では、その煩雑さ故に検査自体の普及が立ち遅れている。しかし、如何に煩雑であっても、その方法でなくては得ることが困難な診断情報が存在する以上、現段階ではこの臨床検査を省くことは適切でない。
 睡眠呼吸障害の簡易診断検査として一般的な就寝中の酸素飽和度測定検査はPSGの十数項目にわたる指標のうちの1パラメーターに過ぎず、この方法のみによるスクリーニングは、酸素飽和度が障害される特定の疾患を診断する場合に有用であっても、数ある睡眠関連の疾患を評価することができず、結果的に不完全な診断と治療方針を導く可能性を秘めている。
 標準的なPSGでは脳波、筋電図(オトガイと下肢)、心電図、酸素飽和度、口鼻気流、胸腹壁運動、呼吸音、睡眠姿勢、食道内圧など13から15項目の記録を就寝中の8時間にわたって連続測定するが、なぜこのように多様で煩雑なパラメーターが必要かについて理解を深める必要がある。人々の眠りは就寝時間=睡眠時間としうるほど単純ではない。睡眠は深さと持続時間の関数であり、短時間でも熟睡する場合や長時間でも十分な睡眠深度が得られないなど、就寝し、意識を失っていることがすなわち正常な睡眠ではないため、睡眠中の現象をとらえる場合には脳波をモニターしながら評価しない限り適切な評価は行いえないのである。その意味でPSGにおける脳波測定は信頼に足る睡眠検査に不可欠の要素である。さらに、夢を見ている状態として知られるREM睡眠では全身の骨格筋が弛緩し、呼吸と循環は覚醒時やより深い睡眠と比較して、より不安定な状態となる。そこで、全く正常な被験者においても無呼吸や不整脈などを認めることが少なくない。逆にREM睡眠期において骨格筋の弛緩がみられない状況も観察され、夢の内容が現実の動作となることがある。いわゆるREM関連行動異常症候群である。筋電図はこれらの現象がREM期に生じているか、あるいは異なる病態かを教えてくれる。さらに筋電図は上気道の安定性を表現し、上気道開存筋群の活動度が評価できる。また、下肢筋の律動的な収縮によって脳波上の覚醒反応が見られれば、周期性四肢運動障害を疑う。呼吸や循環系の指標からは低酸素血症や不整脈の原因が推定できる。このように、単に低酸素血症が生じなければ健康に支障がないという単純な発想では睡眠関連疾患の評価が出来ないのである。
 睡眠呼吸障害の典型である睡眠時無呼吸症候群が社会に広く認知され、個人の健康はもとより、交通事故や労働災害を介して社会生活に大きな影響を与える可能性のある症候群であることが明らかとなっている現在、睡眠呼吸障害の確定診断検査として欠くことのできない睡眠時の生理検査は益々その役割を増すものと考えられる。

05:11:22 | silentsleep | 2 comments | TrackBacks

臨床医に必要な生理検査の役割(基礎から応用まで)

はじめに
 呼吸とその機能検査を十分に理解するには、上気道から肺胞に至る呼吸器の解剖学的構造を理解するとともに呼吸中枢から呼吸筋群へのいわば命令系統と末梢感覚受容器から中枢への情報系統やガスの拡散や循環、組織呼吸に至るまで非常に多くの項目の理解が求められる。しかし、ここでは臨床において頻繁に要求される事項を中心に、基本的な理解を助けることを目的として述べることとする。
 肺機能検査の特性 
 呼吸機能検査は云うまでもなく生理機能検査の一部である。その最も特徴とするところはほとんどの検査項目で被験者の全面的協力が前提となることである。したがって血液検査等の検体検査や画像診断としっかりと区別して考える必要がある。得られた結果を解釈する際にも、検査が適切に行なわれたかどうかを慎重に判断することが求められ、患者に対する不必要な負担を避けるためにも、検査項目を慎重に選ぶ ことが臨床的に重要である。

肺機能検査の分類 
 通常、肺(呼吸)機能検査には表に示す項目が含まれる。呼吸器科医は全ての項目について理解しておく必要があり、太字の項目については自ら測定あるいは指導できることが望ましい。


呼吸機能検査でわかること   
 呼吸は?換気(ventilation)?拡散(diffusion)?循環(circulation)の3つの機能の協調により営まれているので、各機能がどのように営まれているを確認することが病態の解明や治療法の決定につながる。近年では表に示した全ての検査を総合して評価することが呼吸機能検査の趨勢になりつつあるが、一般に肺機能検査という場合には、主に換気と拡散の評価を指す。

換気機能の評価 
 換気に関与する要素は以下の5項目だが、通常最も影響が大きいのは??である。


 各種の抵抗増加は呼吸仕事量の増加を意味し、呼吸困難 の発生につながる。気道抵抗(Raw)増加は閉塞性換気障害を、肺組織抵抗(RLt)や胸郭抵抗(Rrc)は拘束性換気障害を惹起する。従って、気道抵抗や肺組織抵抗を直接測定すれば、より正確な病態評価が可能である。実際にはこれらの測定は必ずしも容易でないため、換気諸量や肺気量を測定してそれぞれの抵抗増加を推定する。

換気諸量(肺気量)測定 
 換気諸量の指標としてスパイログラムの8分画がある。純粋な拘束性障害では全分画が減少傾向を示し、閉塞性障害では残気量が増加する結果として肺活量(呼出可能な気量)が減少する。したがって残気量の評価なしでは真の拘束性障害の評価は困難 である。

 スパイログラムの8分画 

 ◆一般的スパイログラム

 上記のほかに通常は努力肺活量(foced vital capacity FVC)を測定する。FVCはVCと同様の分画であるが、測定時には、最大吸気の後できるだけ速く最大努力で呼出する。このとき得られる最大努力呼気曲線から一秒量(foced expiratory volume in one second FEV1.0)が算出できる。FEV1.0は気道抵抗の上昇、すなわち閉塞性障害を最も再現性良く表現する指標とされている。
残気量の測定 
 残気量あるいは機能的残気量は以下の2法で測定できる。


 平均的検査室で行なわれている方法は?ガス希釈法あるいは窒素洗い出し法である。この方法は交通のある気腔の気量のみを反映するため、肺嚢胞などの大気と交通のない気腔の気量は無視される。これに対し、?体プレチスモグラフ法では原理的に胸郭内の全ての気量を測定できる利点 がある。さらにこの方法では任意の肺気量位における気量を測定できるため、胸郭内気量(Vtg)測定と言いうことができる。

閉塞性換気障害=気道抵抗の上昇 
 気道抵抗(Raw)が上昇する病態では、単位時間内に呼出される気量が制限される。従って、単位時間内の呼出流量(expiratory flow)を測定すれば、間接的に気道抵抗の増大を検出できる。



気流量(flow)の測定 
 気流量を測定する検査法としては以下のものがある。


 ?フローボリウム曲線(またはスパイログラムの強制呼出曲線)では呼出中
の各肺気量位における流量(flow)を測定するため、流量変化曲線のパターンにより、気道抵抗増加の原因となっている部位が推定できる。(?フローボリウム曲線のパターン図)ただし、フローボリウム検査は努力依存性の検査であり、呼吸筋麻痺や被験者の努力不足の場合には正確な評価が困難である。
 ?最大呼気流量測定(ピークフロー測定)は?強制呼出曲線(フローボリウム曲線)における呼気最大流量(PEF peak expiratory flow)にあたる指標を簡便に評価するための指標であり、肺気量と流量の関連や努力度の評価が困難であるが、気管支喘息患者では、概ね気道抵抗の変化を反映する と考えてよい。さらに、簡便である利点を生かし、家庭での頻回・詳細な測定により時系列的な病状把握が可能である。

どんなときに、どの検査を行うべきか 
 以下の表に代表的な臨床病態における呼吸機能検査項目の選択例を示す。スパイログラムやフローボリウム曲線とともに、基本的な検査としてよく用いられる検査は最大換気量測定(MVV)、残気量(肺気量)測定(FRC)と1回呼吸法による一酸化炭素拡散能検査(DLCO)である。DLCOは死腔部分約750ml程度 の呼気ガスを廃棄するため、通常の方法ではVCあるいはFEV1.0が1リットル以下の患者では正確に測定できない。実際の評価はDLCOを肺胞面積で除したDLCO/VAを用いる。近年、VCの少ない対象でも測定できる方法が開発されつつあるがまだ一般的でない。

 臨床病態別 呼吸機能検査項目の選択 


表中の項目に加えて、神経筋疾患や慢性呼吸不全患者では呼吸筋力や換気応答の評価が重要であり、リハビリテーション効果の客観的評価としても有用である。また、肺気腫や間質性肺炎の病態評価には静肺コンプライアンスの測定が有用であるが、肺気量の正確な測定と胸腔内圧の代用としての食道内圧測定が必要であり、残念ながら一般的な検査室ではほとんど行われない 。

予想される結果と解釈 
 ベッドサイドの呼吸機能検査の最終目的は、患者の呼吸機能を客観化して比較を容易にし、病歴や身体所見から推定される病態診断を補強することであるから、検査結果(数値)のみに捕らわれず、患者情報を総合して評価することが最も重要である。

◆閉塞性換気障害
 閉塞性障害は一秒率(FEV1.0%)で規定され、我が国ではFEV1.0%<70%を閉塞性換気障害としている。しかし、一秒率は常に肺活量の影響を受けるため、閉塞性障害の重症度は欧米では一秒量絶対値の予測値に対する割合(%FEV1.0)が主に用いられている。
 閉塞性障害がいかなる原因に基づくかを知るには、フローボリウム曲線の形状の解析が役立つ。特に気道の閉塞部位の推定は基礎疾患の診断に有用である。
 閉塞性障害を呈する病態には以下のようなものがある。


◆ 拘束性換気障害
 拘束性換気障害は肺活量の予測値に対する割合(%VCまたは%FVC)が80%未満と規定されるが、閉塞性障害が高度の場合には見掛け上、%FVCが低値をとるので%VCや一秒率(FEV1.0%)、%RVが正常範囲かどうか確認が必要である。FEV1.0%が正常範囲であれば拘束性障害としてよいが、FEV1.0%の低下が見られれば%RVを確認し、増加していれば閉塞性障害による二次的現象ととらえる。拘束性障害を呈する病態には以下のようなものがある。


フローボリウム曲線のパターン認識 
 図はフローボリウム曲線による鑑別診断のまとめを示している。パターンによる閉塞部位の推定には吸気時のフローボリウム曲線が必須である。特に上気道や胸郭外気道の狭窄では吸気時の流量低下が著しい。

現時点ではベッドサイドで最も有用な指標はFEV1.0またはPEFRである。表3にはFEV1.0またはPEFRによって規定される代表的評価基準を示す。

◆ FEV1.0(またはPEFR)で規定される各種の評価基準 表3


肺機能検査の適応と禁忌 
 呼吸器疾患が疑われる患者はもとより、健康審査を受けようとする人、外科手術を受けようとする人、全てが肺機能検査の対象となる。また、呼吸器疾患の治療効果判定や、治療のためにあえて肺合併症が予想される薬剤(例:ブレオマイシン・アミオダロンなど)を使用している場合も適応になる。
呼吸機能検査は比較的侵襲性が低く、絶対的禁忌は無いといってよいが、急性期にある冠動脈疾患・狭心症・心筋梗塞後・脳血管障害の患者は禁忌である。また、Valsalva’ maneuver(息ごらえをして胸腔内圧を上げる動作) に耐えられない患者や気胸など、悪影響が想定される患者では避けたほうが望ましい。
強制呼出や咳嗽の誘発を前提条件としている呼吸機能検査では、肺結核患者の存在が無視できない。通常の機器保守手順では結核対策は十分とは云えないため、使い捨ての肺機能検査用フィルターなどの装着が望ましい。さらに、検査対象として結核の疑いがあるかどうかの検査前評価が重要であり、検査指示に項目を設けるべきである。一方で疑いがあるからというだけの理由で検査を行わないような事は避けるべきであろう。実際的には、検査室の換気に留意するとともに、検査担当者は被験者の咳嗽が直接かからない風上方向に立ち、自らもマスクを装用することが望ましい。

おわりに 
 呼吸機能検査は臨床医にとって、病歴や身体所見などの基本的情報を裏打ちするためのツールである。全てのツールは使用法を誤れば、全く期待外れの結果が導かれる。医師はもとより検査担当者、さらに看護婦は検査法の原理を十分に理解し基本的なものに関しては自ら測定し、さらに患者に対して適切に説明する義務を負っていることを忘れてはならない。

05:10:02 | silentsleep | 1 comment | TrackBacks

説明:睡眠呼吸障害=睡眠に伴う呼吸不全

要約:
○ 睡眠時無呼吸症候群は「呼吸不全」と「睡眠障害」の複合病態である。
○ 生活習慣病と密接に関連し心・脳血管障害や日中の眠気による交通・労働災害を引き起こして生命を脅かすことが明らかになっている。
○ 本症候群の唯一の確定診断法は終夜睡眠ポリグラフィー検査である。簡易検査を本症候群の確定あるいは除外診断に用いるべきではない。
○ 治療の第一選択はnCPAP療法であり、80%の有効率を示す。減量や外科療法、薬物療法はnCPAP療法で病態を改善させつつ行う、第二選択的治療である。
○ 説明と同意にあたっては、まず確定診断の必要性に対する理解を促すべきである。

はじめに
 睡眠時無呼吸症候群 sleep apnea syndrome(通称SAS)の大多数は、睡眠中に生じる上気道の虚脱を契機に、窒息asphyxiaに近似した呼吸障害が頻回に生じる閉塞型無呼吸低呼吸症候群obstructive sleep apnea syndrome(OSAS)である。
 その基本病態は上気道の動的 な狭窄に基づく「呼吸不全」である。換気を維持しようとする患者の無意識の呼吸努力が、結果的に頻回に脳波上の覚醒反応arousalを引き起こす。そのため、一夜に数百回にもおよぶ頻回の瞬間的覚醒が全体として高度の睡眠障害を形成する。連日連夜、睡眠のたびに患者を襲う高度の“断眠”ストレスは高血圧や虚血性心疾患、脳血管障害などの生活習慣病と密接に関連する一方、睡眠障害に基づく典型的な臨床症状である日中の傾眠や認知能力の低下が交通事故や労働災害の原因となっていることが諸外国における疫学調査で明らかになっている。
 我が国においても7年余りにわたる患者の追跡により、SAS患者の予後が一般人口と比較して明らかに悪いという事実が報告され、人種的・地域的な差を超えて日本人においても深刻な健康被害を与えていることが明らかとなっている。

「確定診断」には終夜睡眠ポリグラフィー検査が必須
SASは基本的に注意深い病歴の聴取と身体診察によって診断可能ではあるが、その確定診断は睡眠呼吸障害を専門とする施設において行う脳波監視を含む終夜睡眠ポリグラフィー検査polysomnography(PSG)により為される。さらに現時点における治療の第一選択は睡眠中に生じる上気道虚脱を、鼻孔を介して陽圧を付与し防止する経鼻持続気道陽圧法 nasal continuous positive airway pressure(nCPAP)である。
 我が国でも診断のためのPSGとともに、治療のためのnCPAPが1998年に健康保険収載され、SASの診断と治療は遅ればせながら認知された形となっている。諸外国を中心とする疫学的研究から、SASは中年男性に好発することが明らかにされているが、その有病率は我が国においても気管支喘息や糖尿病にも匹敵する成人男性の3〜4%と推定され、男女比はおよそ1:3とされるが、閉経後の女性では有病率が男性に近づくことも知られている。
 SASの主要症候は
1)強いイビキ(特に閉塞型では必発)、
2)日中の傾眠あるいは倦怠感(最も重要な臨床症状)、
3)肥満(SAS患者の70%に合併するとされているが、アジア系人種では高度肥満は比較的少なく、顎異常を基盤とし、肥満は必ずしも発症に必須ではない。)
4)高血圧症(SAS自体が肥満や高脂血症などとは独立した危険因子)であるが、実際には表1に示すように多彩な症候がみられる。これらの症状は治療後に初めてSASが原因となっていたことが判明することも少なくない。

  睡眠検査の上で無呼吸apneaは、口および鼻で観測される気流が10秒以上停止することと定義される。また低呼吸hypopneaは換気量が正常の30あるいは50%以下の状態が10秒以上持続する状態と定義されるが、病態的に両者に大きな差はなく、現在では両者を同等に評価し、その頻度を論ずる。名称的にも睡眠時無呼吸低呼吸症候群sleep apnea hypopnea syndrome(SAHS)とするのが一般的となりつつある。健常者でも無呼吸や低呼吸が観察されるが、1時間に5回または一夜に30回以上をもって病的と定義し、1時間あたりの無呼吸低呼吸数を無呼吸低呼吸指数apnea hypopnea index (AHI)と表現する。
 確定診断に当たって、睡眠の分断や深睡眠の欠如を評価するためには脳波による睡眠ステージ(深度)の評価が不可欠である。云うまでもなく終夜脳波検査の実施やその解析作業は煩雑で人的物的な負担が大きい。しかし、この検査を省いてSASの適正な評価はあり得ない。SASは単に呼吸不全であるばかりではなく、重度の睡眠障害であり、この病態を診断・治療することは患者個人の身体的被害のみならず、睡眠障害の結果生じる社会的被害を防止することにもつながるからである。PSGはまた、SASとの合併や鑑別診断の対象となる痙攣性疾患や筋疾患、レストレスレッグ症状群やREM睡眠関連行動異常症候群などの睡眠関連疾患、その他のいわゆる不眠症などを客観的に診断する手段でもある。我が国では簡易型の装置による予備診断が勧められる傾向にあるが、重症でSASの存在が明らかな例は別として、簡易型で無呼吸の存在が否定されてもPSGで診断される例や、逆にSASを疑われても結局は睡眠障害の存在と治療効果の判定にはPSGによる診断が必要となることから、簡易型の装置はあくまで経過観察やPSGが行えない場合の補助診断法と捕らえるべきである。

睡眠呼吸障害をインフォームするために
 ここでは前段で述べたPSG絶対論に対して、ある種の矛盾を孕んだ記述をする必要がある。すなわち、科学的にはPSG絶対であるがPSGを受ける機会を得ることそのものが我が国では制限される。その上に、検査や診断確定までの煩雑な手続きを望むものは少ないため、PSG検査を受ける心理的環境づくりそのものがSAS のインフォームドコンセントと言えなくもない。七面倒な学会基準や疾患の詳細な分類の説明を受けることは、患者にとって苦痛であるばかりか、この疾患の正当な治療を受ける意欲すら削いでしまう可能性がある。このことは患者が自ら進んで事実を把握し、理解に至ること。最終的に自らの病態を受け入れたうえで自主的・継続的に治療を行ってくために重要である。

 SASでは一般に「患者本人が納得できる自覚症状」に乏しい。 仮に自覚症状が存在しても、患者は真の原因ではなく自らが理解しやすく、いわば自己正当化しやすい事象に症状発現の理由を求めようとする。
 例えば、無呼吸によって覚醒しても、排尿のためだと解釈し、納得するためにトイレに通うが、排尿量が少ない矛盾に気がつかない。医師に相談すると前立腺肥大を疑われ、年齢のせいかと納得する。あるいは、いつでもどこでもすぐに眠れることを自ら「寝つきが良い」と表現し、テレビを鑑賞中に寝入ってしまうほどの傾眠傾向であることに気づかない。会議中にいびきをかいてしまい、周囲の嘲笑を察知して浅い眠りから目覚め、自分は決して眠ってはいないと憤慨する。就業中の眠気は年齢による体力の衰えであると解釈し、健康食品やドリンク剤を購入して、結果的にカロリーを過剰摂取して肥満が加速する。それらの行動の本来の理由である「事件」は本人が決して認知しえない、睡眠中に起こっているのである。睡眠中に起こった不快な現象は、夢として記憶されることはあっても、覚醒後に正確に状況を説明することは著しく困難である。PSGなどの検査によって診断が確定した後でさえも、患者本人が「心からの理解」に至るのは容易なことではない。

従って、診療に当たってはいくつかの注意点がある。

 第一に受診した動機が自主的なものか、周囲に強く促されたのかについてそれとなく確認することから始める。仮に自主的に医療機関を訪れたのならば説明と理解、そして同意はそれほど困難ではない。しかし、受診が周囲の要請ならば当の本人にとっては、すでに自尊心を傷つけられ、状況に不信感を抱いている、一方では自らの健康への自身を失い困惑している。この状態で理解の難しい課題を受け入れられる人は稀である。他の状況として、受診そのものは自主的だが、その理由はメディアからの知識や職場での風評といった、多分に周囲の影響を受けたことによる場合であり、この場合も強く促された場合と同様の配慮が必要である。周囲に促された場合、「たかがイビキでなぜ、こんなに大げさなことになったのか」といった印象を持っている。しかし、もちろんイビキがどのようにして生じ、それが基で、どのような健康被害が起こるのかについて、正確に理解していることはまずあり得ない。理解している場合は自主的な受診になるからである。そこで、まず本人の戸惑いと自尊心を棄損されたことに対する共感を示すべきである。その上で、周囲に指摘された症候に関して説明を聞きたいという意志があるかどうかを丁重に問い、「聞いてやってももいいよ」という様子がみられたら、イビキはどこからどのように出てくるかといった内容から説明する。その際、本人について説明するというより、あくまで一般論という姿勢を保つことである。本人の理解が得られたことを確認しながらSASという病態について説明を進めるという手順をとる。

 第二に症候について聴き取りや指摘を行う前に、この疾患が本来活動的な個人を、結果として怠惰で覇気のない人間に見せてしまうことがあることを説明しておくことである。診断にあたって聴取しなければならないSASにおける多くの症候は、「大きなイビキが因で周囲から避けられたり、覇気が無く、怒りっぽく、依存的であり、カロリーの過剰摂取が目立つ。外見的には身体の清潔に無関心なことや肥満がある。」このような人物像はともすれば社会的に批判の対象になりがちな立場にあることが多いため、仮に医師からの説明の中で、身に覚えのある「不快な一致点」を見つけても、本人が頭から否定せずにすむように自尊心に配慮しなければならない。例えば、「会議中に眠くなりますか」という問いに対し、たとえ実際は居眠りの繰り返しでも「いつもいびきをかいて寝てるよ。」と答える患者は存在せず、「つまらない会議では...。」とか「仕事ですから、絶対に眠らないようにしています。」といった反応を示す。また、「眠気は仕事に支障になりますか?」という問には然したる根拠もなく「支障はない。」と答える人が多いであろう。「では、今より眠くなかったらもっと仕事が捗ると思いますか」と聞くと「そう思う」と答える。というように、質問の内容は結果的に同じ意味であっても常に患者の社会的な立場に配慮して用意する必要がある。

 第三に病態の説明にあたり、一方的に症状を列挙して解説するのではなく、類似した症例を示し、本人自らが類似例との一致点を探すよう仕向けることである。その上で、それぞれの症状や所見に解決策や一定の科学的解釈が存在することを示して行くことが重要である。すなわち、一般論として治療が行われた場合の予後と行われなかった場合の危険性について述べ、効果が科学的に証明されていることを説明する。

 第四に診断や治療に長期間を要することを期待するものなどいないという点である。しかし、実際には確定診断検査のためのPSG検査は短期間ながら入院を要し、場合によってはトイレにさえ自由に行くことができない複雑な機器を装着して検査室で夜を過ごす必要がある。そこで、本人が疾患の存在や重要性を否定的に捉えていると判断される場合には、病状を受容してもらう手段として、家庭において実施する「簡易型呼吸モニター検査」を勧める。簡易的モニターはあくまでも確定診断にはならないことを告げた上で、本人に疾患が存在することを確認してもらうことを目的とする。この際、簡易機器はスクリーニング機器であるため、特異度specificityが多少低くても鋭敏度sensitivityが高いものを選択する必要があることは云うまでもない。

 第五に診断確定後の治療について説明する場合、今日標準的に行われているSASの治療、nCPAP療法は患者自らが病態を受け入れ、理解することなしには効果的な継続ができないという点である。従って、医師は現段階でもっとも推奨される治療法がnCPAPであり、減量や外科手術に際してnCPAPによる睡眠状態の改善なしに不用意に行われることが無いよう、また、減量の成功率が50%未満であることや外科療法の効果はnCPAPの有効率80%以上に明らかに劣ることを説明しなければならない。煩雑な上に場合によっては一生涯使用し続ける必要のあるnCPAPは医師自身が否定的になる場合が見受けられる。しかし、視力障害者における眼鏡や、腎機能障害者における血液透析、心機能障害におけるペースメーカーなど、治癒には結びつかないが機能を温存する治療法は枚挙に暇が無い。nCPAPを否定的に捉える医師の心情の基盤には、SASが生命にかかわる疾患であることに対する認識の不足。SASの原因が肥満であるという単純な誤解。SASは呼吸障害である以上に睡眠障害として深刻であり、死亡の原因としての事故死が看過されていることへの理解不足。高血圧等の二次的合併症を本態性と捉えてきたこれまでの医療への誤った自信。nCPAPが生命維持装置と表現される人工呼吸器であるかのごとき印象を有すること。

 対して患者が過剰な期待を抱かないよう十分に配慮しなければならない。口蓋垂口蓋咽頭形成手術uvulo-palato-pharingo-plasty(UPPP)をはじめとする外科療法は十分な手術効果が得られなかった場合に、nCPAPを装着しても良好な効果が得られ難い例が多く、

SDBの大多数は以下に詳述する閉塞型睡眠時無呼吸低呼吸症候群であり、患者の多くは中年以降の男性である。しかしSDB自体は全年齢に分布する疾患であることを念頭におくことが重要である。本邦における正確な有病率は不明であるが少なくとも男性で2%程度、男性と同程度の頻度とされる閉経後の女性を除けば、女性の有病率は一般に低いと考えられている。
 SDBの健康や社会への影響は著しく大きいことが知られているが、大別して1)睡眠中の呼吸障害に基づく合併症の出現と2)呼吸障害に随伴する睡眠障害による社会生活への影響である。1)に関して米国では閉塞型睡眠時無呼吸低呼吸症候群が高血圧症の独立した危険因子として認定された。

○ SDBの分類
American Academy of Sleep Medicine(AASM)によるSDBの分類は表1のごとくである。

表1
閉塞型睡眠時無呼吸低呼吸症候群(OSAHS)
中枢型睡眠時無呼吸低呼吸症候群(CSAHS)
チェーン・ストークス呼吸症候群(CSBS)
睡眠時低換気症候群(SHVS)
AASM task force. Sleep 1999; 22(5),667-689
睡眠中の呼吸イベントが7時間の睡眠中に30回以上みられること。一回の呼吸イベントは10秒以上の持続をもって有意とする。呼吸イベントは3種に分類し、それぞれ表2のごとく定義する。

表2
閉塞型呼吸イベント
◆ 閉塞型睡眠時無呼吸低呼イベント
上気道の閉塞による呼吸の一過性の減弱あるいは完全な消失。睡眠時の安静呼吸に比して50%以上の換気減少。50%に満たないが、3%以上の酸素飽和度の低下または覚醒を伴う低呼吸。
◆ 呼吸努力関連覚醒反応 respiratory effort-related arousal(RERA)
呼吸努力の増加による覚醒反応を伴うイベントがあるが、無呼吸低呼吸の基準を満たさないもの。
◆ 混合型呼吸イベントは閉塞型呼吸イベントの一部と捕らえる。


○ 基本病態と診断基準
 SDBの90%以上を閉塞型睡眠時無呼吸低呼吸症候群 obstructive sleep apnea hypopnea syndrome(OSAHS)が占める。
○ SDBの治療適応
○ SDBの治療法選択
○ SDBの予後

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非侵襲補助換気療法と人工呼吸療法

気管内挿管や調節機械換気が中心であった人工呼吸管理は、近年その様相を大きく変えようとしている。紙面の都合で詳細についての記述は困難だが、マスクを用いで行う非侵襲補助換気NIPPVが急速に普及しているからである。ここではNIPPVを、酸素療法と従来からの呼吸管理法である挿管を前提とした侵襲的人工呼吸法との中間に位置付け、概説する。

□ 人工呼吸療法(気管内挿管下)

【目的】臨床的な目的を列挙すると酸素療法に不応の低酸素血症・急性呼吸性アシドーシス・絶えがたい呼吸困難の是正、呼吸筋疲労・無気肺の防止や改善、痙攣のコントロールや手術、麻酔に際して鎮静と筋弛緩を許容する、心筋梗塞などの急性期において全身および心筋酸素需要量を軽減する。頭蓋内圧の減圧やフレイルチェストの内固定なども重要な目的である。
 
【適応】臨床的には以下のような状況が適応となる[表1]。

挿管下人工呼吸管理の適応(表1)

絶対適応
1) 呼吸停止・不安定な呼吸を伴う意識障害
2) 管理不能な不穏状態で大量の鎮静薬使用
3) 意識混濁かつ脈拍50回以下
4) 血圧70 mmHg以下あるいは循環動態が不安定
相対適応
1) 吸回数35回以上で、進行性の悪化
2) pH7.30未満で進行性あるいは急速な悪化
3) 酸素投与にてもPaO2 45 mmHg以下
4) 精神状態の悪化

【技術:人工呼吸のモード】
現在の呼吸モードの基本はSIMV synchronized intermittent mandatory ventilationである。SIMVは自発呼吸に同期して設定回数だけの強制換気が行われる。さらに自発呼吸には圧補助pressure support PSが付加される場合が多く、SIMV+PSでの管理が基本となる。
強制換気は従量式volume targetedと従圧式pressure targetedがあり、通常は前者である。鎮静中は自発呼吸が少ないため従量式調節呼吸volume limited control ventilation VCVか従圧式調節呼吸pressure limited control ventilation PCVとなる。通常は換気量維持を目標にVCVに、硬い肺では気道内圧の制御が重要であるためPCVを基本とする。自発呼吸を補助するPSは人工換気からの離脱の際にも有用なモードである。
【初期設定】
1)酸素濃度(FIO2) 1.0
2)換気モード SIMV+PS
3)トリガー ?1?2 cmH2O
4)目標換気量 6?7LPM
一回換気量として10(8?12)ml/kg
5)I/E比 1:2 ? 1:3
6)呼吸回数 12(10 ? 20)
7)プレッシャーサポート 換気量10 ml/kgになる圧
8)PEEP 2 cmH2O

【アラーム設定】
1)最大気道内圧 50 cmH2O未満
2)最大分時換気量 設定換気量の1.5倍
3)最小分時換気量 設定換気量の0.5倍

【目標】

FIO2を0.6以下かつPaO2が60mmHg以上(SpO2 90%以上)

初期設定では純酸素で換気し、酸素化能力を評価する。提示した初期設定は肺の硬さが正常で気道抵抗にも異常がない状況を基準としている。バイタルサインを把握し、可能な限り速やかに換気力学モニターを用いて病態を把握する。

□ 非侵襲補助換気療法

【目的】
非侵襲補助換気療法の目的は基本的に人工呼吸と同様であるが、気管内挿管などの侵襲的な気道確保を行わず、鼻あるいは顔マスクにより呼吸補助を行う。
【適応】
 呼吸性アシドーシス(=高二酸化炭素血症)を伴う慢性呼吸不全の急性増悪はNIPPVの最もよい適応である。重篤な感染症や意識障害例は適応にならない[表2]特に自発呼吸がないあるいは不安定な場合は挿管下の人工呼吸に移行する。
【目標】
FIO2を0.6以下かつPaO2が60mmHg以上(SpO2 90%以上)は同様である。しかし、NIPPVは気道確保をあえて行わず、いわばリーク(漏れ)を容認する技術であるため、その目的は呼吸の調節ではなく、補助であることに関する十分な理解が重要である。NIPPVは開始後数時間が不安定な時期であり、初期の管理はベッドサイドで医師がマスクを手で保持しながら行う必要がある。

【技術:バイレベルPAP装置】
NIPPVを目的として開発された機器はフロージェネレータータイプと呼ばれ、基本的にCPAP装置と同様の原理だが、吸気圧と呼気圧を別々に設定することができる。従って、呼気時にはPEEPのように吸気時にはプレッシャーサポートのように作用する。本格的に呼吸管理に用いるためには、最大供給圧が30cmH2O以上で酸素濃度を正確に調節できる性能をもつことが望ましい。

【初期設定】
1)酸素濃度(FIO2) SpO2が90以上を保つように設定
2)換気モード S/Tモード(自発感知および時間換気併用)
3)吸気時陽圧 10 cmH2O
4)呼気時陽圧(PEEP) 4 cmH2O
5)timed back up 回数 12/分

非侵襲換気補助療法の適応(表2)

適 応
1) 吸気補助筋の使用、奇異性呼吸運動といった努力様呼吸を伴う呼吸困難の自覚
2) pH<7.35かつPaCO2>45 mmHgの呼吸性アシドーシス
3) 呼吸数>25/分
除外基準
1) 呼吸停止
2) 循環呼吸不安定
3) 患者の協力が得られない、意識障害
4) 最近の顔面手術、食道および胃の手術
5) 頭部顔面の外傷あるいは火傷
6) 誤嚥の可能性が高い

酸素療法と非侵襲換気補助、人工呼吸療法は互いに別個の技術ではなく、呼吸不全の診療にあたって連続的、有機的に駆使する必要のある技術である。特に非侵襲換気補助療法はCOPDの挿管回避による死亡率の減少や気管支喘息例の気管内挿管回避など具体的な成果が報告されている。これら新しい技術は通常の人工呼吸と比較してどちらが優れているかという視点ではなく、除外基準にあたらない場合には早期に非侵襲換気補助を試み、効果が不安定な場合や無効の場合は定型的な人工呼吸管理に移行する体制が必要である。
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酸素療法と人工呼吸療法

1. 酸素療法
oxygen thrapy

【目的】
酸素療法の目的は、生命の危険を伴う高度の低酸素血症を是正し、組織の酸素化を維持することにある。末梢における酸素需要を満たすためには、酸素投与による動脈血酸素分圧の維持のみでなく、ヘモグロビン濃度に依存する酸素の含量[CaO2(ml/dl)=1.34×Hb(g/dl)×SaO2(%)/100+0.0031×PaO2(mmHg)]、心拍出量に依存する循環の維持が必要である。
【適応】
PaO2が60 mmHg未満あるいはSaO290%未満の呼吸不全は直ちに酸素投与の適応である。また、心拍出量の低下が明らかな心不全状態や心筋梗塞患者、多発外傷等では仮にPaO2が保たれていても酸素投与の適応がある。呼吸不全はPaCO2が45mmHg未満のI型と45mmHg以上の?型に分類されるが、後者では酸素投与が過剰にならない配慮が必要である。いかなる状況においても症状・身体所見や病歴に関して把握することを基本とし、血液ガス分析・酸素飽和度(パルスオキシメトリー)などの客観指標をもって確認する。

1.低酸素血症の症状
判断力の低下、混迷、意識消失、不整脈、血管拡張、血圧低下、
中心性チアノーゼ
2.高二酸化炭素血症の症状
傾眠傾向、縮瞳、乳頭浮腫、頭痛、羽ばたき振戦、発汗、高血圧

【目標】

PaO260以上あるいはSpO290%以上、pH7.35以上

ヘモグロビンの酸素解離曲線から60 mmHgを超えてPaO2を上昇させても酸素含量の増加は僅かである。導入時の酸素流量はPaO260mmHgを超える程度に設定することが望ましい。健常者は3種類の化学的刺激(pHの低下、PaCO2の上昇、PaO2の低下)により呼吸が刺激されている。しかし、結核後遺症患者や重症の肺気腫など慢性?型呼吸不全患者ではpHの低下、PaCO2の上昇に対する感受性が低下している場合がある。ある報告によれば20名の?型呼吸不全患者に15分間100%の酸素を投与したところ、PaCO2は平均23mmHg上昇したという。PaO2が60mmHgを超えると低酸素によるドライブが低下し、呼吸性アシドーシスが悪化する。pH7.3を下回るとショック・不整脈をはじめとする循環代謝障害の頻度が高まる。しかし、一方で酸素投与による二酸化炭素蓄積を恐れるあまり酸素投与を躊躇するようなことがあってはならない。呼吸抑制が起こった場合には適切な換気補助の手段を講じる準備を整え、むしろ積極的に低酸素血症の是正を行うべきである。特に急性呼吸不全では初期から十分な酸素投与を行うべきであり、ナルコ?シスを危惧する必要はない。

【技術:酸素供給システム】
□低流量システム 
患者が吸入する空気の一部を酸素ガスとして供給するシステム。

鼻カニューレ(nasal cannula, nasal prong) 
酸素流量0.5-6LPM 供給酸素濃度24-40%

 最も簡便で一般的な酸素投与システムである。
利点:低流量では快適で、食事や会話を妨げることなく酸素を吸入することができる。
欠点:吸入気の酸素濃度は呼吸パターンや一回換気量などによって大きく変化し、鼻閉や口呼吸の場合には期待した効果が得られない場合がある。安定した呼吸を行っている場合の吸入気酸素濃度はおおよそ、酸素流量1l/分あたり4%程度上昇する。4l以上で長時間使用すると乾燥による鼻腔の障害や疼痛などが現れるため、使用すべきでない。

経鼻カテーテル(nasal catheter)
酸素流量0.5-6LPM 供給酸素濃度24-45%

カテーテルを鼻腔内(咽頭腔)まで直接挿入して酸素を投与するシステム。
利点:咽頭腔自体がリザーバーとして作用し、経鼻カニューレよりも吸入濃度が安定し、やや高い吸入酸素濃度が得られる。低流量では快適で、食事や会話を妨げることなく酸素を吸入することができる。
欠点:鼻腔や咽頭の不快感がある。乾燥による粘膜障害や分泌物によるカテーテルの閉塞を生じやすい。安定した呼吸を行っている場合の吸入気酸素濃度はおおよそ、酸素流量1l/分あたり4%程度上昇する。4l以上で長時間使用すると乾燥による粘膜障害が現れるため、高流量ではなるべく使用しない。

リザーバー付き鼻カニューレ(nasal catheter)
酸素流量1-5 LPM 供給酸素濃度24-45%

リザーバー(酸素溜り)を併用することにより鼻カニューレで高濃度酸素吸入を可能にする器具。慢性的に高濃度・高流量酸素吸入が必要な対象に適している。
利点:比較的簡便なシステムであり、基本的に鼻カニューレと同様の特徴を有する。低流量で、より高濃度の酸素供給が可能。
欠点:単純なカニューレに比べて大型で高価。高濃度酸素供給よりも酸素供給量の節減が主目的。

単純(顔)マスク(simple mask、simple oxygen face mask)
酸素流量5-10LPM 供給酸素濃度35-50%

経鼻カニューレと共に最も簡便で一般的な酸素供給システムである。供給可能な酸素濃度は基本的に経鼻カニューレとほぼ同様である。
利点:比較的高流量でも快適。単純な構造で価格も安い。口呼吸でも安定した酸素濃度が得られる。
欠点:顔面を広く覆うため食事や会話に支障があり、閉塞感を感じる場合がある。鼻カニューレに比べて大量の酸素供給が必要である。

部分再呼吸型(顔)マスク(partial re-breathing mask、リザーバーマスク)
酸素流量6-15LPM 供給酸素濃度50-70%

単純マスクにリザーバーを装着した酸素供給システムである。リザーバー内には呼気の一部が戻り、従って部分的に再呼吸するためこの名が付けられている。
利点:比較的単純な構造でシンプルマスクと同等の利点を有し、室内気よりも酸素濃度の高いリザーバー内の空気を再呼吸するため、同一流量ではシンプルマスクよりも高い吸入酸素濃度が得られる。航空機の客室に備えられているものとほぼ同じものである。
欠点:換気状態により吸入酸素濃度が大きく変化する。再呼吸するため比較的大量の酸素供給が必要である。次に記す非再呼吸型マスクと外見が非常に類似しているので混同しないこと。

非再呼吸型(顔)マスク(non-rebreathing mask、一方向弁付きリザーバーマスク)
酸素流量6-15LPM 供給酸素濃度50-90%

部分再呼吸型(顔)マスクに加えてリザーバー内に呼気が逆流しないように一方向弁を取り付けると共に、マスク自体の穴にも室内気が流入しにくいようにフラップ弁を装着した酸素供給システムである。リザーバーは常に膨らんだ状態で吸気時に僅かに小さくなる程度に流量を調節する。
利点:リザーバー内は常に純酸素で満たされ、再呼吸しないため、同一流量ではシンプルマスクよりも高い吸入酸素濃度が得られる。
欠点:ほぼ全吸気量を回路から供給するので換気状態により吸入酸素濃度が変化する。マスクのフィッティングが悪いと室内気が流入して濃度が著しく低下する。非再呼吸型マスクと外見が非常に類似しているので混同しないこと。マスクによる閉塞感は最も大きい。

□高流量システム
患者が吸入する基本的に全ての空気と酸素を機器から供給するシステム。

ベンチュリー・マスク(Venturi mask、Venturi tracheal mask)
酸素流量4-12LPM(機器に依存) 供給酸素濃度24-50%

濃度ごとに色分けされた規定のノズルから一定流量の酸素が噴出するとき、ジェット流の周辺に一定の陰圧が生じるベンチュリー効果によって、流量が一定なら常に一定量の室内気が混合され、酸素と室内気の混合比が一定となる。24%では室内気/酸素比は25/1、60%では1/1となる。顔マスクや気管切開用マスクなど種々の形態があり、回路内にネブライザーを介在させることも可能。供給酸素濃度は酸素流量とノズル両者により規定されるため、一方のみを変更しても適切な濃度にならないことに注意する。
利点:大量かつ安定した濃度の酸素供給が可能。仮に患者の換気量が減少しても酸素濃度が必要以上に上昇するようなことがない。
欠点:ベンチュリープラグが容易に閉塞する。流量設定を誤ると濃度が大きく変動。濃度に関わらず比較的大量の酸素供給が必要であり、移動や携帯に適さない。濃度変更のために多種類のプラグを用意する必要がある。(可変式の器具も市販されている)

ベンチュリー式ネブライザー(InspironTM type neblizer、Air entrainment neblizer)
酸素流量8-12LPM(機器に依存) 供給酸素濃度24-100%

大容量の加温加湿器にベンチュリーシステムの室内気混合装置をつけたものである。プラグを変更する代わりに室内気の流入孔をスリット型とし、その幅を調節することで一定の空気が混合される方式を採用している。回路の中間にリザーバーや水受けをつけることもできる。
利点:加湿機能を有するため、大量かつ安定した濃度の酸素供給が可能。比較的高濃度の酸素供給が可能。
欠点:流量設定を誤ると濃度が大きく変動する。濃度に関わらず比較的大量の酸素供給が必要。経済性はやや劣る。

【手順】
慢性呼吸不全の急性増悪患者では鼻カニューレ1LPM(24%程度)から、I型急性呼吸不全では3LPM(35%程度)から開始する(余裕があれば開始前に室内気で血液ガス分析を行う)。少なくともSpO2モニターを同時に開始して90%を目標に流量を増減する。
鼻カニューレで酸素流量が5LPMに達しても90%を維持できない場合は、直ちに非再呼吸型マスク(リザーバー付きマスク)に変更する。
I型急性呼吸不全例で非再呼吸型マスクではSpO2 90%を維持できない場合は人工呼吸管理に移行する。II型慢性呼吸不全の場合はマスクによる非侵襲的換気補助(NIPPV)を考慮する。
【副作用と禁忌】酸素投与量は常に必要最小限にとどめるべきことは言うまでもないが、酸素による肺障害はFIO2 0.5以上で著しく、吸入時間と気圧(分圧)に依存する。しかし、急性期に酸素による肺障害を意識する必要があるのはパラコート中毒のように活性酸素産生を助長する場合や長期高濃度投与を要する場合である。
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04:48:50 | silentsleep | 55 comments | TrackBacks