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11 August

臨床医に必要な生理検査の役割(基礎から応用まで)

はじめに
 呼吸とその機能検査を十分に理解するには、上気道から肺胞に至る呼吸器の解剖学的構造を理解するとともに呼吸中枢から呼吸筋群へのいわば命令系統と末梢感覚受容器から中枢への情報系統やガスの拡散や循環、組織呼吸に至るまで非常に多くの項目の理解が求められる。しかし、ここでは臨床において頻繁に要求される事項を中心に、基本的な理解を助けることを目的として述べることとする。
 肺機能検査の特性 
 呼吸機能検査は云うまでもなく生理機能検査の一部である。その最も特徴とするところはほとんどの検査項目で被験者の全面的協力が前提となることである。したがって血液検査等の検体検査や画像診断としっかりと区別して考える必要がある。得られた結果を解釈する際にも、検査が適切に行なわれたかどうかを慎重に判断することが求められ、患者に対する不必要な負担を避けるためにも、検査項目を慎重に選ぶ ことが臨床的に重要である。

肺機能検査の分類 
 通常、肺(呼吸)機能検査には表に示す項目が含まれる。呼吸器科医は全ての項目について理解しておく必要があり、太字の項目については自ら測定あるいは指導できることが望ましい。


呼吸機能検査でわかること   
 呼吸は?換気(ventilation)?拡散(diffusion)?循環(circulation)の3つの機能の協調により営まれているので、各機能がどのように営まれているを確認することが病態の解明や治療法の決定につながる。近年では表に示した全ての検査を総合して評価することが呼吸機能検査の趨勢になりつつあるが、一般に肺機能検査という場合には、主に換気と拡散の評価を指す。

換気機能の評価 
 換気に関与する要素は以下の5項目だが、通常最も影響が大きいのは??である。


 各種の抵抗増加は呼吸仕事量の増加を意味し、呼吸困難 の発生につながる。気道抵抗(Raw)増加は閉塞性換気障害を、肺組織抵抗(RLt)や胸郭抵抗(Rrc)は拘束性換気障害を惹起する。従って、気道抵抗や肺組織抵抗を直接測定すれば、より正確な病態評価が可能である。実際にはこれらの測定は必ずしも容易でないため、換気諸量や肺気量を測定してそれぞれの抵抗増加を推定する。

換気諸量(肺気量)測定 
 換気諸量の指標としてスパイログラムの8分画がある。純粋な拘束性障害では全分画が減少傾向を示し、閉塞性障害では残気量が増加する結果として肺活量(呼出可能な気量)が減少する。したがって残気量の評価なしでは真の拘束性障害の評価は困難 である。

 スパイログラムの8分画 

 ◆一般的スパイログラム

 上記のほかに通常は努力肺活量(foced vital capacity FVC)を測定する。FVCはVCと同様の分画であるが、測定時には、最大吸気の後できるだけ速く最大努力で呼出する。このとき得られる最大努力呼気曲線から一秒量(foced expiratory volume in one second FEV1.0)が算出できる。FEV1.0は気道抵抗の上昇、すなわち閉塞性障害を最も再現性良く表現する指標とされている。
残気量の測定 
 残気量あるいは機能的残気量は以下の2法で測定できる。


 平均的検査室で行なわれている方法は?ガス希釈法あるいは窒素洗い出し法である。この方法は交通のある気腔の気量のみを反映するため、肺嚢胞などの大気と交通のない気腔の気量は無視される。これに対し、?体プレチスモグラフ法では原理的に胸郭内の全ての気量を測定できる利点 がある。さらにこの方法では任意の肺気量位における気量を測定できるため、胸郭内気量(Vtg)測定と言いうことができる。

閉塞性換気障害=気道抵抗の上昇 
 気道抵抗(Raw)が上昇する病態では、単位時間内に呼出される気量が制限される。従って、単位時間内の呼出流量(expiratory flow)を測定すれば、間接的に気道抵抗の増大を検出できる。



気流量(flow)の測定 
 気流量を測定する検査法としては以下のものがある。


 ?フローボリウム曲線(またはスパイログラムの強制呼出曲線)では呼出中
の各肺気量位における流量(flow)を測定するため、流量変化曲線のパターンにより、気道抵抗増加の原因となっている部位が推定できる。(?フローボリウム曲線のパターン図)ただし、フローボリウム検査は努力依存性の検査であり、呼吸筋麻痺や被験者の努力不足の場合には正確な評価が困難である。
 ?最大呼気流量測定(ピークフロー測定)は?強制呼出曲線(フローボリウム曲線)における呼気最大流量(PEF peak expiratory flow)にあたる指標を簡便に評価するための指標であり、肺気量と流量の関連や努力度の評価が困難であるが、気管支喘息患者では、概ね気道抵抗の変化を反映する と考えてよい。さらに、簡便である利点を生かし、家庭での頻回・詳細な測定により時系列的な病状把握が可能である。

どんなときに、どの検査を行うべきか 
 以下の表に代表的な臨床病態における呼吸機能検査項目の選択例を示す。スパイログラムやフローボリウム曲線とともに、基本的な検査としてよく用いられる検査は最大換気量測定(MVV)、残気量(肺気量)測定(FRC)と1回呼吸法による一酸化炭素拡散能検査(DLCO)である。DLCOは死腔部分約750ml程度 の呼気ガスを廃棄するため、通常の方法ではVCあるいはFEV1.0が1リットル以下の患者では正確に測定できない。実際の評価はDLCOを肺胞面積で除したDLCO/VAを用いる。近年、VCの少ない対象でも測定できる方法が開発されつつあるがまだ一般的でない。

 臨床病態別 呼吸機能検査項目の選択 


表中の項目に加えて、神経筋疾患や慢性呼吸不全患者では呼吸筋力や換気応答の評価が重要であり、リハビリテーション効果の客観的評価としても有用である。また、肺気腫や間質性肺炎の病態評価には静肺コンプライアンスの測定が有用であるが、肺気量の正確な測定と胸腔内圧の代用としての食道内圧測定が必要であり、残念ながら一般的な検査室ではほとんど行われない 。

予想される結果と解釈 
 ベッドサイドの呼吸機能検査の最終目的は、患者の呼吸機能を客観化して比較を容易にし、病歴や身体所見から推定される病態診断を補強することであるから、検査結果(数値)のみに捕らわれず、患者情報を総合して評価することが最も重要である。

◆閉塞性換気障害
 閉塞性障害は一秒率(FEV1.0%)で規定され、我が国ではFEV1.0%<70%を閉塞性換気障害としている。しかし、一秒率は常に肺活量の影響を受けるため、閉塞性障害の重症度は欧米では一秒量絶対値の予測値に対する割合(%FEV1.0)が主に用いられている。
 閉塞性障害がいかなる原因に基づくかを知るには、フローボリウム曲線の形状の解析が役立つ。特に気道の閉塞部位の推定は基礎疾患の診断に有用である。
 閉塞性障害を呈する病態には以下のようなものがある。


◆ 拘束性換気障害
 拘束性換気障害は肺活量の予測値に対する割合(%VCまたは%FVC)が80%未満と規定されるが、閉塞性障害が高度の場合には見掛け上、%FVCが低値をとるので%VCや一秒率(FEV1.0%)、%RVが正常範囲かどうか確認が必要である。FEV1.0%が正常範囲であれば拘束性障害としてよいが、FEV1.0%の低下が見られれば%RVを確認し、増加していれば閉塞性障害による二次的現象ととらえる。拘束性障害を呈する病態には以下のようなものがある。


フローボリウム曲線のパターン認識 
 図はフローボリウム曲線による鑑別診断のまとめを示している。パターンによる閉塞部位の推定には吸気時のフローボリウム曲線が必須である。特に上気道や胸郭外気道の狭窄では吸気時の流量低下が著しい。

現時点ではベッドサイドで最も有用な指標はFEV1.0またはPEFRである。表3にはFEV1.0またはPEFRによって規定される代表的評価基準を示す。

◆ FEV1.0(またはPEFR)で規定される各種の評価基準 表3


肺機能検査の適応と禁忌 
 呼吸器疾患が疑われる患者はもとより、健康審査を受けようとする人、外科手術を受けようとする人、全てが肺機能検査の対象となる。また、呼吸器疾患の治療効果判定や、治療のためにあえて肺合併症が予想される薬剤(例:ブレオマイシン・アミオダロンなど)を使用している場合も適応になる。
呼吸機能検査は比較的侵襲性が低く、絶対的禁忌は無いといってよいが、急性期にある冠動脈疾患・狭心症・心筋梗塞後・脳血管障害の患者は禁忌である。また、Valsalva’ maneuver(息ごらえをして胸腔内圧を上げる動作) に耐えられない患者や気胸など、悪影響が想定される患者では避けたほうが望ましい。
強制呼出や咳嗽の誘発を前提条件としている呼吸機能検査では、肺結核患者の存在が無視できない。通常の機器保守手順では結核対策は十分とは云えないため、使い捨ての肺機能検査用フィルターなどの装着が望ましい。さらに、検査対象として結核の疑いがあるかどうかの検査前評価が重要であり、検査指示に項目を設けるべきである。一方で疑いがあるからというだけの理由で検査を行わないような事は避けるべきであろう。実際的には、検査室の換気に留意するとともに、検査担当者は被験者の咳嗽が直接かからない風上方向に立ち、自らもマスクを装用することが望ましい。

おわりに 
 呼吸機能検査は臨床医にとって、病歴や身体所見などの基本的情報を裏打ちするためのツールである。全てのツールは使用法を誤れば、全く期待外れの結果が導かれる。医師はもとより検査担当者、さらに看護婦は検査法の原理を十分に理解し基本的なものに関しては自ら測定し、さらに患者に対して適切に説明する義務を負っていることを忘れてはならない。

05:10:02 | silentsleep | | TrackBacks
Comments

JWoxRgsJciMzqkggu wrote:

Haha. I woke up down today. You
07/14/11 00:54:23
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