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10 August

睡眠とアレルギー疾患


日本アレルギー学会秋季集会シンポジウム
座長の言葉 櫻井 滋
 
 睡眠は人々の健康に深く関与する生理機能であるが、これまで一部の専門家の研究的テーマとして、あるいは科学的とは言い難い養生訓の世界で捉えられることが多かった。しかし、近年の睡眠医学の発達により睡眠そのものへの理解とともに、多くの全身的疾患との関連が論じられる時代となっている。
 この度、集会長のご指導により、アレルギー疾患と睡眠の関わりを紹介するセッションを設けるようにとのご指示があり、高森建二先生と共に座長を仰せつかる事となった。このセッションでは、アレルギー疾患と睡眠との古くて新しい関わりを意識していただきたいと願うものである。アレルギー疾患の臨床においては睡眠の障害自体が問題にされることは少なく、「睡眠を妨げるほど重症な症状」として捉えられる場合が多いと考えられる。その典型は呼吸困難を伴う気管支喘息による不眠やアトピー性皮膚炎の痒み、アレルギー性鼻炎の鼻呼吸障害による睡眠障害もその範疇に入るであろう。しかし、近年の睡眠医学研究の成果として、これら病態が「睡眠を契機として増悪するメカニズム」が明らかになりつつある。例えば、アレルギー性鼻炎による鼻呼吸障害が増悪因子となる閉塞型睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠による上気道筋群の弛緩と閉塞を契機に胸腔内圧の過剰な低下が生じる。相対的に上昇した腹腔内圧により胃酸が食道へと逆流(GERD)する。食道下端には気道収縮を惹起するレセプターが存在するため、睡眠中に気管支喘息発作を引き起こす。このように、一見、偶然の合併と思われる病態間に密接な関連があることが明らかになりつつある。睡眠障害はまた、免疫担当細胞の機能にも影響を及ぼし、コーチゾールとは無関係に免疫系に影響を及ぼす。具体的報告としては64時間の断眠により白血球増加とNK細胞数の低下が見られ、睡眠により回復するとする報告がある。その他、睡眠障害がもたらす障害は多岐に及ぶためアレルギー疾患のマネージメントにおいては正常な睡眠を確保することに、従来にも増して意を用いる必要があると考えられる。換言すれば、単に呼吸困難が軽度であるとか痒みが自制内であるというのではなく、睡眠の質を考慮した治療が必要となる。シンポジスト各位にはこれらアレルギー疾患と睡眠の連関についてご報告いただき、会員諸兄の診療や研究のヒントとしていただければ幸いである。

01:07:56 | silentsleep | 1 comment | TrackBacks